【コラム】『母(ママ)の詫び状』柊 ゆりえ ~我が家はハブ空港~

眠い昼下がり。
自宅でパソコンをいじっていると、階下でバタバタと音がする。続いて女の子たちの笑い声。
あれ?もうそんな時間?
時計はまだ2時前を指している。
学校からの予定表で確認してみると、本日は木曜日だが、先生たちの研究会のため揃って他校に出張、とある。なるほどそういうことか。

ねえ上にこれを着ればいいかな?いいんじゃない?バレないバレない大丈夫!

階下できゃはははと浮かれてはしゃぐ、中3女子たち。いつものメンバーだろう。
コロナ以降散発的に在宅ワークは増え、私は仕事をしつつも家に居られる日が増えた。とてもありがたい。塾の日に軽食を作って送り出すことも見届けられるし、下校後の学校の愚痴を聞き流す、クッションのような時間にもなっている。中学生になったらもう大きいから1人で何でもできると思ったら大間違い、特に女の子は思春期というあまりにも危うい時期なのだと実感する日々。昨日は快晴でも今日は大荒れ、なんてことはよくある。母親が何かできるとも思わないが、きっといるだけで何かにはなっているのだろう。
頃合いを見計らって、おかえりと上から声をかける。

「わっ!びっくりした!いたの?」娘の満面の笑顔。今のところ快晴なのだな。
「こんにちわあ」「お邪魔してまーす、また荷物置かせて下さーい」ボブとポニーテールの、いつもの仲良し2人。
はいはいどうぞー。

下校が早いとき、彼女たちはよく我が家に立ち寄り、学校の重いバッグを置いて、持参した私服を羽織り、3人で飛び立つ。制服のままウロウロするのはよろしくないのだ。こっそり持参した私服を羽織り「変装」する。帰宅した私の目に(学校のカバン+サブバック)×3が玄関に転がっている風景は、これまでにも何度もあった。今日もその予定なのだな。

「〇〇ちゃんのお母さんには内緒にしてね!ちょっと厳しいんだって!バレたら遊べなくなる!」「いってきまーす!」

本当はいけないんだろうなと思いつつも、彼女たちの楽しげな様子を見ると、微笑ましくて何となく許してしまう。ドラえもんののび太のような。ドカンのある空き地のような。ノスタルジーを感じてしまう。一度帰ってから遊んだら?と言うべきなのだろうが、野暮なことは言いたくない。限られた時間を奪い、居場所を狭めてしまうようで。
我が家は荷物保管場所、準備基地。ハブ空港のようなものだ。カバンを置き準備をして意気揚々と目的地に向かう。
と言ってもせいぜい徒歩で20分圏内の商業施設に出かけて、アイスクリームを食べたりみんなでおこずかいを出し合ってプリクラを撮るくらいで、夜遅くなることもないし危険な場所に足を踏み入れることもしない。渋谷や池袋で遊んでいるなら親もヤキモキするだろうけれど。半分制服でワクワクしながらスタバの新作を食べるくらい、可愛いものだ。

2年の夏休み以降、感情の起伏が激しくなったように思う。なんとなく「強い」女子がいて、気は合わないけれどおはようくらいは言ったのに返事がなかったこと。先生から誤解されて怒られて腹が立ったこと。リレーの補欠選手となってしまった。練習しても本番は走れないんでしょ?と、いじけていたこと。(補欠だろうが生まれて初めてリレー選手の候補になった!と、私はとても嬉しかったのだけど)
毎日毎日よくもまあこんなに色んなことを持ち帰ってくるものだ。私には愚痴しかこぼさないが、友達と仲良くやっている姿をみると、嫌なことばかりではない、どうにかこうにか過ごしているのだなと安心する。
しかしながらこれから高校受験。テストをクリアし、内申点をかき集め、受験に向かって行かなくてはならない。こんな乱気流な毎日で受験できるのだろうか。こんなことなら、思春期を迎える前に中学受験をさせておくべきだったかな、などと都合の良い考えも頭によぎってしまう。

どうしたの、もう暗くなってきたよ。
別室でやはり今日は在宅ワークの主人がやってきてぱちっと電気をつける。
気がつくとパソコンの白い画面をぼーっと眺めていた。時計を見ると5時半を少し回ったところだ。
参ったなあ、あんまりはかどらなかったな。そろそろ夕飯の支度をしなくちゃ。

ただいまあ!
あのねえ、上野でボートに乗ったんだよ!ねえ見てこれ、390円だったの!

娘が駆け上がってくる。手にはどこぞで買った、花模様のポーチ。
階下では友人たちが帰り支度をしている。

今帰ったらさあ、ちょうど部活終わって帰るくらいだからバレないよね?などとゲラゲラ笑っている。
用意周到。素晴らしい。そういう細かいところが大事なんだぞ!

あーもうすぐテストだ、終わったらまた遊ぼうね!
ありがとうございましたーさようならー

はいはいまたね。お米を研ぎながら返事をする。

みなさん、穏やかに頑張れ。台所の小窓から後ろ姿にエールを送る。