[コラム]『成長を促す受験でありたい』~過去問対策はどう取り組めばいいのか?~

過去問対策は受験作戦の最大の決め手

この時期に保護者の方からよく聞かれるのが、過去問対策にどう取り組めばいいかということです。

私は、中学入試というのは、それぞれの学校の“採用試験”だと考えています。それぞれの学校には独自の建学の精神や誇りといったものがあります。そして、それに磨きをかけて貫いていくにはこういう子を採りたいというものがあるはずで、入試問題にはそうした思いが込められます。つまり、その学校がどういう学力の子、どういう考え方をする子、どういう発想をする子、どういう事務処理能力を持っている子を採りたいのかということを明らかにして、公表しているのが入試問題なのです。ですから、過去の入試問題、いわゆる過去問の対策は、その学校を知るうえで一番の手がかりになりますし、最終的に合否を判断する重要な決め手になると位置づけています。

模擬試験も学力を測るうえで無視はできません。どこがどうやれていないか、学力の不足をあぶり出しにしてくれるのですから、その結果は謙虚に受け止めるべきでしょう。でも、入学試験は単元到達度確認テストではありませんから、満点を取る必要はありません。例えば理科だったら4分野から出るのですから、物理が苦手だったらそれは捨てたっていい。残りの3分野でも75%あるのですから、そこで60点取れればいい。そういう割り切りが必要です。必ず取れる問題というのが何割かあるので、さらにそれを5%増し、10%増しにしていこうという作戦によって、合格点まで持っていくことが可能です。そして、こうした作戦を行うには、模擬試験の偏差値よりも、過去問がどのくらい解けるかというデータの方が重要です。合否を占う、またどこを受験するかといったことの最終的な決め手になると思います。

子どもの志望校への思いが固まっていくのも、過去問への取り組みが始まってからです。最初の段階では過去問はほとんどできません。特に記述問題など白紙です。何とか書けと言っても書けません。でも、それと向き合って何度も取り組んでいるうちに答案が変化して、鉛筆の色が濃くなってくる、つまり白紙だったものが書くようになってきます。稚拙でも、言葉の順番がグジャグジャでも、一生懸命答えようとしているというのが読み取れるようになります。そういう変化の中で、志望校への気持ちが研ぎ澄まされていって、その時点ではまだ実力が足りないとしても、その足りない部分を埋めていこう、がんばってみようという気持ちが育っていくのです。

 

できれば過去問対策は塾に任せたほうがいい。

そういうことで、私共の塾では過去問対策をとても重視し、塾生それぞれの志望校対策として、6年の9月から土曜と日曜に時間をとって、個別に過去問対策を行っています。ただし、私共の塾では、家庭で過去問対策に取り組ませるということをしていません。ご家庭で購入した過去問はすべて塾で預かって、塾の中でやることにしています。そうしないと、いろいろ問題が起きることが多いからです。

過去問を塾でしっかり管理しないと、家で過去問をやってきたとか、自分で採点したとか言って過去問の答案を持ってくる子どもが出てきます。そういう場合、必ず点数がこれまでよりグーンと上がっています。「こんなにできた!」と言って、子どもは喜んで答案を見せに来ますが、普段のその子の学習状況を見ている私たちプロには、それがどういうことかわかります。事前に解答を見てしまったり、採点の際に答案を書き換えたりしてしまうんですね。いい子であればこそ、そして親孝行でまじめな子であればこそ、こういう欺瞞的なことをしてしまうものです。親が問題をきちんと管理しているつもりでも、子どもは解答のある場所を見つけ出します。また、親は親で、過去問の出来が悪いと子どもが自信をなくすとか、受験したくないと言い出すといったような脅迫観念があって、事前に問題を見せるなどしてズルをさせてでも良い点を取らせて、ご機嫌を取ろうとしたりします。親子間ではどうしても過去問の扱いが甘くなってしまうのです

過去問対策においては、合格点に30点足りない、40点足りないということを冷静に受け止めて、あとはどこで点を取れるかということを冷静に分析して、子どもと一緒に建設的に合格作戦を積み上げていくことが求められます。ところが、親子の間ではそのように冷静に答案を検証するということがなかなかできません。ですから、第三者が入って調停したほうが良いということで、過去問対策は塾の方で見るようにしているのです。

また、合格最低点を学校が公表していない場合もありますし、公表していても配点までは公表しておらず、業者の推定ということも多いです。こうした点を冷静に考えれば、自己採点した点数に気をもむよりは、塾の先生の経験を頼られた方が良いと思います。

 

家庭でやるなら“自分に厳しく”の意識で

このように、過去問対策はできれば塾に任せた方が良いというのが私の考えです。塾に完全に任せることができない場合もあるでしょうが、その場合でも採点だけは塾に持って行ってお願いする方が良いでしょう。お父さんやお母さんはなるべく採点しない方が良いと思います。もし家庭で採点するなら、むしろ“自分に厳しく”という意識を持たせて、お子さん自身に採点させる方が良いでしょう。採点でも勇気をもってバツを付けることが大切です。バツをもらったところから勉強が始まると思うので、過去問でも自分に厳しくバツを付けて、答えを見てやり直すこと。それでわからないところは、塾の先生に答案を持って行って聞くようにすると良いでしょう。

過去問の取り組み方は、参考に私共の塾のやり方を教えておきます。取り組む順番は、第3、第2、第1志望校というように、まだ、年度も古い年度から新しい年度に進むように、遠くから近くへ、城の本丸に向かって、外堀を埋めるようにします。過去問の最初の取り組みは、直近の3年分より古い年度の問題を、Aパターン(本試験通り、1年毎の問題を指定時間で解答する方法)で1年分やり、傾向やレベルを実感したうえで、次はBパターン(同分野・同単元・同内容などの類似問題ごとに数年分を横断的に解答する方法)で、直近の3年分より古い年度の問題を4・5年分ぐらい連続で解き、さらに似たような傾向の問題にも取り組み、各分野・単元の問題を攻略していきます。そうやって実力をつけた上で、12月以降に第1、第2、第3志望校の直近3年分をAパターンで取り組み、受験校選定の最終判断の材料とします。あくまで取り組み方の一例とお考えください。

ただし、過去問は採点をして何点だったという評価も重要ですが、どうしても合格したいのであれば、それ以上に振り返って検証して、問題を“研究”することが大事です。過去問はやりっぱなしではなく、もう一度解き直してみることが必要です。