[コラム]『赤ずきんちゃん気を付けて』~ 上昇気流に乗ろう ~

上昇気流に乗ろう

あちらもこちらも模擬試験の宴たけなわである。
6年生のこの時期は通常の公開模試に加えて、〇〇中学難関対策模試、中高一貫公立対策模試など、学校別の模試も目白押し。結果に一喜一憂している生徒も多いのではないだろうかと思う。
しかしながら実際に授業をして生徒に向き合っている身としては、「普通に」授業を受けて、「普通に」目の前の問題に取り組み、「普通に」できなかった問題に対してなぜできなかったのかを考えることができる生徒は順調に伸びているということを、声高に申し上げたい。
もちろん全てが数字に現れるわけではない。いくら夏休みに頑張ったからといってその努力がそのまま偏差値に反映するのなら、こんなに楽なことはない。できたはずなのにと不本意な結果に意気消沈してしまうこともあるだろうと思う。そんな姿に励ましの声をかけても、その言葉すら届かない時もある。中学生の娘を持つ私も、大人として親として、結果が伴わなかった子供にできることなんて何1つないのだと日々思い知らされている。

全ての子がきっかけをつかめたらどんなにいいだろう。
中学受験のために勉強しているのだけれど、取り組んでいるうちにいつしか勉強することの楽しさそのものに気がつき始めたとしたら、その子はすでに合格に向かう上昇気流に乗っている。清々しいばかりに。

この問題、絶対あってる!できてる自信ある。できてなかったら…ボウズにする!

先日に授業でのこと。
この子の口からこんなセリフが出るとはなあ。
式1つ立てることもままならなかったのに。

算数ってさ、わかった問題ができてると、めっちゃ気持ちいいよ!

そうも言っていた。
そう、そうなんだよ。
解けたと思った問題ができてれば嬉しいし、気持ちいいし、できてなかったら悔しい。なんで?って思う。でも、思うだけじゃなくてそこでなぜ間違えたのか見直すことができたら、その間違いは次に生きてくる。
できた→嬉しい できなかった→悔しい
この単純な感情がとても大切です。前進する原動力になるからです。

問題は、「何とも思わない」こと。
できないことに慣れてしまうことが一番厄介です。
これ間違ってるよ?気づいてる?
何でこんな式立てたの?
こんな数字どこから出てきたの?
こんなこと問題に一言も書いてないよね、わかってる?

行き当たりばったり、何となく解いている子の頭の中を一度シャキッとピカピカに磨いてあげたい。

勉強はエンジンをかけるまでが一番大変だと思う。
どうしたらエンジンがかかるのか?
解けた、できたという経験を増やすしかない。ロールプレイングゲームで言うところの「経験値」を増やすこと。そうしたら少しレベルアップする。そのことの繰り返しだ。
かといって難しい問題ばかり解いていると、「得点をする」クセを忘れてしまう。その時には初心に帰る。丁寧に。式を立てる。定石通りに。

ねえみんな知ってる?入試ってね、得点が高ければ合格するんだよ。易しかろうが難しかろうが、たくさんの問題を解いて高得点なら合格なんだよ。(もちろん難問の方が配点は高いのですけどね)

その子にとっての得点源とチャレンジ問題を波うちぎわのように行ったり来たり判別するうちに、いつしか螺旋状にふと上昇しているような感覚。
これ、絶対に解けた!
っていう確信が持てたら、それを、自信と呼ぶのだと思う。

解く。できている、あるいは間違える。直す。
その連続に夢中になってほしいこの時期。

でも多分、誰しもが疲れて、ふと立ち止まってしまうこともあるだろう。どこに向かって進んでいるのかわからず、地面をただ這っているような気持ちに鬱々としてしまうこともあるかもしれない。
そんな時は、どうか休んでほしい。そして部屋に閉じこもるよりは外に出て、天気の良い日にはできれば高い場所に登ってみてください。子供だけではなく大人も。

ただぼけっと、遠くの雲や建設中のクレーンや首都高を流れる車を眺めているだけで、背中に感じる太陽の暖かさを感じるだけで、頭の芯の固まっているところがほぐれていくようです。
小さく飛ぶ飛行機を見て、あの中に人がいるということが不思議に思える。
私のそばには同じようにぼんやり休憩している人がいる。お弁当をつついている人、パソコンを前に悩んでいる人もいる。
眼下で信号は青になり、横断歩道を渡る人たちがまるでアリのように見える。

‥そう、私も煮詰まる時期。今この文章をビルの屋上テラスで書いています。
入試問題をひたすら解く日々。どうすれば生徒を引き上げられるか一番悩む時期。
毎年出題傾向は刷新されるので、今までの経験にあぐらを書いているわけにはいかない。
それに加えて家庭では娘の大反抗期‥気分で生きている娘に順調に振り回される。この問題教えてと聞いてくるのに、できない苛立ちをぶつけられる。解説しても素直に聞くなんて10%な感じの時期。じゃあ聞かなきゃいいじゃないと、心の中でつぶやく。私の生徒たちはなんて素直なんだ!少なくとも私の話に耳を傾けてくれる。
でも、私にはきつく当たるけれど元気に学校に通っているじゃないか。何も悪いことは起きていない。本人なりに奮闘している。それでいいんじゃないか。

そんなことを考えたらなんだかお腹がすいてきた。
よし。下界に降りよう。どこかでご飯食べよう。そしてカフェで問題解くぞ!

偏差値に縛られてはダメですよ。不安に押しつぶされませんように。
乱高下は想定内。

上昇気流に乗れますように。