[コラム]『成長を促す受験でありたい』~心も体も学力も暑い夏が育てる~

夏休みはまず規則正しい生活を意識する

古くから、「夏を制する者が受験を制する」ということがよく言われてきました。学校がなく、受験勉強のための時間を多く作れる夏休みは、受験生にとっては学力を上げる大きなチャンスだということでしょう。確かに夏休みにはそういう面があります。その反面、学校がないということでだらだらと過ごしてしまい、生活のリズムを狂わせやすいという面もあります。そこで、夏休みは規則正しい生活を意識して、朝は早起きをする、きちんと三食をとるなど、生活のリズムを整えながら、その中に勉強の時間を組み込んでいくようにしたいものです。今年はコロナ禍で例年よりも短い夏休みではありますが、改めて学年ごとに夏休みを過ごす上でのポイントを確認しておきたいと思います。

勉強については、どこの塾でも夏期講習を行っており、大抵これまで勉強した単元の総復習のカリキュラムが組まれているので、やはりそれを利用するべきでしょう。ただし、4年、5年、6年、それぞれの学年によって、夏期講習のボリュームが違いますし、意味合いも違ってきますので、夏休みをどのように過ごせばいいかは学年ごとに違ってくる部分があります。

 

4年の夏は勉強の習慣を崩さないことが大事

まず4年生の場合は、夏期講習の期間はだいたい2週間から多くて3週間ぐらいで、それ以外の日の方が多いだけに、そこであまり遊び癖をつけないように気をつけたいものです。もちろん長い夏休みの間には十分に遊ぶことも必要ですが、4年生の夏休み前というのは、塾通いによってようやく勉強の習慣がつき始めたところで、夏休みもそれを継続させることが大事です。そうしないと9月からの勉強に戻りづらくなります。勉強をやるときはしっかり勉強する、遊ぶときは思いっきり遊ぶというメリハリが大切です。

塾の夏期講習の勉強だけでは、実際に問題を解いたり、書いて覚えたりする時間が少ないので、そうした自分の手を動かして作業する時間をできるだけつくるようにしましょう。たとえば毎朝、朝食前に計算問題をプリント1枚やると決めるのもいいでしょう。5題でも10題でも、毎日無理なくできる分量でかまいません。併せて漢字の書き取りも毎日5つやるようにすれば、40日間で4年生までに習う漢字を全部おさらいできます。これを学校のある時に始めるとなるとけっこう大変ですが、夏休みであれば始めやすいでしょう。社会であれば、これは別に朝でなくてかまいませんが、1枚目の白地図には都道府県と県庁所在地、2枚目には山と山地・山脈、3枚目には川と平野というふうに、白地図を何枚も仕上げてみるといいでしょう。

理科では、植物や昆虫などの観察をして記録をつけてみるのもいいでしょう。虫を飼ったりすると、結局は死なせてしまうかもしれませんが、それも子どもにとっては貴重な経験です。

読書もぜひするようにしたいものです。これまで長いものを読んだことがないというお子さんだと読み切る自信がないので、どうしても短いものばかり選ぶ傾向がありますが、時間がたっぷりある夏休みはそれを克服するチャンスです。やさしめの内容でいいので、少し長めのものを選んで与えましょう。やさしい本でも最後まで読めたという達成感を持つことができれば、子どもは自信を得ることができます。

 

5年の夏は本格的な受験勉強に備えて足腰を鍛える

5年生の夏休みの過ごし方も、基本的には4年生と同じと考えていいと思います。ただ、受験までのスケジュールを考えた場合、5年生の夏期講習の位置づけは非常に大きなものがあります。5年の秋からの塾の勉強は中学入試で重要になる内容が目白押しで、質も量も非常にハードになります。これをこなしていくには体力も気力も必要で、そのための準備をするのが5年の夏期講習なのです。プロ野球の選手がペナントレースで実力を発揮するには、シーズンオフの走り込みでしっかり足腰を鍛えておくことが大事といわれますが、5年の夏期講習はまさにその走り込みと同じです。目先のことにとらわれず、テストの点数などにはあまりこだわらず、勉強の足腰を鍛えることにじっくりと取り組んでほしいと思います。

そういう点で、とりわけ私がこの時期に大事な勉強と考えているのが国語の長文読解と記述です。5年の夏休みは、心情を読み取るとか、文章のテーマを読み取るということを100字程度の文章で書く記述の練習にぜひ取り組みましょう。こうした力を伸ばす勉強はあまり早すぎてもダメで、5年の夏ぐらいからがちょうどよい時期なのです。そして、この時期に4教科の要となる国語力を鍛えることは、算数・理科・社会を勉強するうえでも援護射撃になります。また、夏期講習に沿って復習をしていくだけでなく、その歩みを少し止めてでも、これまでの勉強の中で気になっているテーマに絞って勉強して、自信をつけるということも必要でしょう。たとえば算数の割合を徹底的に勉強して、割合の問題なら絶対にできると思えるぐらいにするのです。

 

6年の夏は弱点対策を重点的にやる

6年生は、どこの進学塾でも7月までにカリキュラムの勉強が一通り終わり、夏期講習はこれまでやってきた勉強の総復習になります。9月以降は過去問に取り組むなど自分の志望校対策に絞り込むため、まず問題に挑戦してできるかできないか確認する演習形式の授業に展開も変わるわけで、そういう展開を有利にしていくための最後のおさらいの時間といえます。

6年の夏期講習はかなりボリュームがあり、夏休みの勉強が夏期講習一辺倒になるのはある程度やむを得ないでしょう。それ以外の勉強は、あれもこれもやって全部中途半端になるより、自分の弱点や志望校の入試で多く出題されそうな内容を重点的にやるべきです。

自分の弱点や志望校対策で重要な内容を知るには、塾の先生に聞いてみるのがいいと思いますが、これまでやった模試などのテストを見直し、間違ったところやできなかったところをもう一度やり直してみるのも弱点対策になります。

また、やり直したい単元やよく理解していない単元を紙に書き出して、それをもとに何をやるか毎日の計画を立てて取り組むようにするといいでしょう。夏休み前に立派な計画を立てる受験生もいますが、大抵はその通りには行かないもので、それが本人の負い目や挫折感になって、夏休みの気分を重くしていきます。親子バトルの引き金にもなりかねません。それよりは計算用紙にしているような紙に、毎日寝る前にでも、明日やろうと思うことを思いつくままに書き出して、それを翌日一つ一つこなしていくぐらいのゆるやかなメモ書きの計画がいいでしょう。

「読書の本を10ページ読む」とか、「暑中見舞いのハガキを書く」とか、「田舎のおばあちゃんに電話をする」とか、やろうと思うことを何でも書き出し、そのなかに「算数の問題集の〇ページから〇ページまでやる」といった勉強の計画も書き加えるのです。そして、朝起きたら、やる順番に番号をふり、1つやり終えるごとに横線を引いて消していくようにすれば、一つ一つ消していくごとに達成感を得ることができます。そして、今日やり残してしまったことは、明日の予定に優先的に書き込むようにします。横線で消されたメモ紙を見ながら今日一日の充実感が湧いてきますし、次にやるべきことが明確になります。こうしたことを習慣づけていくと、常に問題意識を持って勉強に取り組めるようになり、自分から勉強していく姿勢が育っていきます。

 

夏休みの実体験が9月からの勉強を生き生きさせる

夏休みはいろいろなことを試してみるチャンス、今までやったことのないことにチャレンジしてみるチャンスではないかと思います。そして、このチャレンジは、6年は別としても、4年や5年の場合であれば、受験勉強のためにやるというのではなく、楽しいからやるという気軽な気持ちでやってみて、うまくいかなかったち今度は別なやり方でやってみるというようなことでいいのではないでしょうか。こうした夏休みの実体験はお子さんを生き生きとさせ、 9月以降の勉強に必ず生かされるはずです。

私どもの塾ではいつも、7月のカリキュラムカレンダーに、「心も体も学力も暑い夏が育てます」という言葉を書きます。夏休みは子どもにとって大きな成長ができるときで、その成長こそが、この先にある合格の礎になっていくのです。