[コラム]『赤ずきんちゃん気を付けて』~けがの功名~

けがの功名

Zoom学習が始まり、はじめの頃はひたすら歯がゆい思いだけだった。
授業をしても理解しているのかどうか、式は書けているのか計算方法はおかしなものになってはいないか採点は甘くなっていないか。画面上でよそ見をしている生徒がいても、私が声を発すればその注意はきちんと取り組んでいる生徒の耳にもダイレクトに届いてしまうから、そうそう注意しても気が散るだろうと気を揉んだりもした。
ここは例年苦手な子が多いんだよなあ、入試問題では途中式を書かせることもあるからここはチェックしたいなあと思うにつけ、貞子のように(ご存知でしょうか?)画面からニュッと出ていって生徒のノートを見たい衝動に駆られた。(いずれZoomもバーチャル立体3D機能なんかがついたらそんなことも可能かもしれませんね。開発者の方に頑張ってもらいたいです)

しかしそんなことばかり考えていても仕方がないからここはひとついつもとやり方を変えて、カリキュラムごとに行なっているプリント授業は緊急事態宣言が解除され登塾できるようになってから行うことにして、ひたすらカリキュラムをテキストに沿って進めることにした。
そう思いなおして授業を進めるうちに、いつもよりスムーズに進行していることに気がつく。質問は最後にまとめて受け付けるから途中で解説が中断しない。言い間違いや早口、えーとかあーとか、余計なことを言わないようにしようと意識する。(そう思ってニュースを見ているとアナウンサーがいかに訓練されているかがわかる。局にもよりますけれどもね)
いかにわかりやすく説明できるか。画面だと単調になりやすいので解説は長すぎてもダメ。問題のレベルによっても解説の濃淡をつけて、ハイレベルの問題は逆にスピードをあげてピリッと緊張感を持たせた方がいいのかな、とかなんとか。
もちろん私の思惑が100%生徒に届いたかというとそうではないだろうしもっと別のアプローチもあっただろうと思う。
でも私が長年続けてきた「対面授業」を見直すことができたし、経験は大切だろうけど同じ生徒は1人としていないのだから改めてその子に必要な情報は何かを深く考えた。
コロナ禍によって得たものもあったということだ。

学校でも思いがけず不登校だったのに登校できるようになった生徒がいるという。
集団生活が苦手で、授業中も周囲が気になって勉強に集中できない。当然理解できないから課題もこなせない、ますます学校が嫌になる‥という悪循環。
しかし全員がオンライン授業になり、画面には映りたくないけれど授業は集中して参加しているうちに、誰の手も借りずに課題をクリアできるようになった。するとなんだか自信がついて勉強も楽しくなり登校できるようになった。

けがの功名。何がきっかけで情勢が好転するかわからないものだ。悪いことばかりじゃない。そう思いたいしそう思わなければならないと思う。

毎日の感染者数にもだんだん感覚が麻痺してきた。半年後にはワクチンできるからといってもわからない。研究者や専門家の方が日夜努力しているのは間違いないが、コロナウィルスは相当厄介な敵なのも事実だ。半年我慢すればあとはインフルエンザと同じなどという根拠のない楽観論に身を任せてはいけない気がする。感染拡大は否めないという悲観的構造論もまた事実なのだろう。

でもかといって人間が何もできないということではない。
手を洗う。うがいをする。出来るだけ歩く、自転車に乗る。酷暑もやって来るだろうから熱中症にも気をつけなければならない。
どんな状況でも学べること得られることははたくさんあるし、教室の元気な子供の声がなくならない限りそうそう暗い未来など訪れようもないと私は信じている。

ただ。
図形だけはやっぱり直接授業ではないとビンビン響かないようで、全員図形の勘どころが恐ろしく鈍っておりました。
夏期講習の大きな大きな宿題だなあとわかったことも、大きな収穫でした。

みなさんはどうですか?