【コラム】『母(ママ)の詫び状』柊 ゆりえ ~スマホと高校生とゼネレーションギャップ~(2023/6/2配信)

スマホと高校生とゼネレーションギャップ

またスマホをいじってる。

いくら休日とはいえ、パジャマのままだらしなくソファーに座り、話しかけても聞こえないのか返事もしない。2度目の洗濯機を回し終わりベランダに干そうと洗濯カゴを抱えながら、文句の1つでも言いそうになるのを必死にこらえる。

娘が高校に入ってまず驚いたのは、結果的にスマホが必携だった、ということだ。

コロナ以降PCは1人1台が普及し、娘の高校でも補助金付きでタブレット端末を入学前に用意し、日々持参している。しかしそれとは別に、スマホは学校生活の中で欠かせないツールになっているのだとか。

「持っている人はケータイ出して、このQRコード読みこんで。ない人はPC開いてくださーい‥全員スマホを持っているあたり、令和ですよねー、って、担任の先生が言ったんだよ」と聞いた時には主人も私もかなり驚いた。もちろん中にはスマホ自体持ち込み禁止、あるいは授業中は学校に預ける、というような学校もあるだろう。娘の学校は完全フリーオープンで、使えるものはどんどん使う、扱いについては本人に一任の方針らしい。授業中ゲームしようが友達とLINEしようがもう知らん、高校生にまでなったら本人の責任、ということか。

娘によれば、スマホはPCより手軽だし立ち上げる必要もないし、PCを開きながらスマホで調べるというスタイルが主流なのだとか。

「探求」という授業でグループごとに集まって話し合うらしいのだが、その時も生徒はみんなスマホを片手ににぎやかになんのかんの楽しそうにしており、どう見ても私には休み時間にしか見えない。←この様子も、先生が自身のスマホで撮影したもので、高校全体の連絡システムを使って動画配信されたものなのだ。

生徒だけではない。そもそも保護者に対する保護者会や運動会に関する連絡だって個々の出欠連絡だって、すべてスマホを経由したものなのだ。さらに子供のテスト結果、外部模試の点数、果ては日々の勉強時間まですべてのデータはびっちり報告される。得意な科目はいいけど、社会とかの点数はなんとなくうやむやにして黙っていようと思うのに〜と、娘はげんなりしていた。

そうだよねえ。気の毒に。高校生にまでなって親が子供の点数に口うるさくするなんて、私も嫌だよ。勉強しなかったらいずれは自分にはね返ってくることくらいは本人もとっくにわかっているし、その中で自分が大学受験に必要な科目は何か、重点を置いて勉強しなければならない科目はどれなのかを自ら取捨選択することが大切。

それなのにもし目も当てられない点数を見てしまったら、言いたくもない小言を言ってしまいそう。喧嘩をして親子関係をこじらせて、本人も進むべき道を見失ってしまうかもしれない。知らぬがホトケっていうこともあるよ、などと、先日の中間テストの結果が配信されるのを私はビクビクしつつ待っている。

親ですらこんなにたくさんの配信があるのに、ましてや子供にはどれだけ毎日のやりとりがあるのだろうか。

クラスのLINE。部活のLINE。選挙管理委員会のLINE。部活と委員会には顧問の先生もグループの一員として入っている。(先生のLINEのアイコンが犬の後ろ姿だったりする、なんていうことも当然生徒の話題に上る。意外にお茶目なところあるよね!数学の〇〇先生!きゃはははー!といった具合に)

明日の部活の練習場所と時間の連絡、誰が撮ったのかこの前の練習の時の面白動画も流れてくる。

明日の生徒会選挙では選挙管理委員は制服着用のこと、ジャージは禁止です。という連絡に慌ててシャツにアイロンをかけたり。(その時は運動会期間でほぼ毎日ジャージで登校していた)

会長が当選した瞬間の歓喜の様子も流れてきたという。

クラスの席替えまでLINEで相談している。

どうやって決めようか、目の悪い人は前のブロックからくじ引きにしたらどうか、いやいやそういう人にはもう自分で選んでもらったほうがいいんじゃない?

追いつけないくらい書き込みが進んでいく。

40人がLINEでやり取り?直接話し合ったほうが早いのでは?などと野暮なことを言ってはいけない。大まかなルールを決めて共有したあと、LINEのクジ引きシステムとやらを駆使してホームルームで決めるのだとか。紙を小さく切って番号を書いて折りたたんで箱に入れて順番にクジを引いていく‥なんてのは太古の昔。

休日も何となく友達とやりとりしてつながって、誰がどのタイミングでどんな気の利いたことを発信するのか、なんてことにも気を配り、自分の発信するタイミングを虎視眈々と狙う。私なら面倒で放り出すところだけれど、娘にはきっと、乗り遅れるとイタイ、重要なコミュニケーションツールなのだろう。コロナの中学時代は「しゃべるな」と言われ、ますますスマホ文化が促進したのかもしれない。

先日高校で、「部活動の保護者会」があり、現役で難関大学に合格した、部活動と勉強を両立した先輩方の話を聞く機会があった。部活が終わってからは学校で勉強して帰る、帰宅したらクタクタで寝てまた起きるという生活だった。きついなと思う時もあったけれど、友達も頑張っているから自分も頑張ることができたという絵に描いたような青春ど真ん中のステキな先輩たちだった。

質疑応答の時間に、1人のお母さんが手を上げた。

スマホとの付き合い方はどのようにさせたらよいですか?

先輩方はしばしきょとんとしていた。まるで質問の意味がわからない、とでもいうように。

えーと、と、しばらくの沈黙の後、元卓球部の男子の先輩曰く

課題は配信されますし、レポートなんかもPCで提出することがとても多いです。PCとスマホはリンクさせていますから、寝っ転がってスマホでレポート書いたりもしていました。あまりいいことじゃないのかもしれませんけれど。息抜きで動画も見たりしましたし、うん、特に制限はされていませんでした。ついでに言うと、スマホとは関係ないかもしれませんけれど、勉強のことで高校時代に親から何か言われたことはありませんでした。まわりがみんな塾に行くから焦って自分も行きたいと言ったら通わせてくれましたし、でも自分で学校で自習した方がいいなと思ったのでやっぱりやめると言った時も、特に何も言われませんでした。

スマホはゲームしなかったらいいんじゃないかなって思います。

話す内容もさることながら、しっかりとした話し方に、会場中の保護者からはため息が出た。

しっかりしてるわねえ、うちの子3年後にこんな風になるのかしら?

そうよね、今はもう、時代が違うのよね、ワタシたちの頃とは。あんまりとやかく言っちゃいけないのよ、ねえ。

時代が違う。

その一言に尽きる。

スマホいじってるからといって、いちいち

「長い時間やってるよ」

「誰かと連絡とってるの?」

なんて言うのは大きなお世話なんだろう。

その度にきっと「うるさいなあ」と思われて、私が伝えたい他のことには耳をかさなくなるし、「どーせ遊んでると思ってるんでしょ、信用されてないから、私なんて」という思いを募らせるにちがいない。

休日のお昼近くにパジャマのままもすごくだらしなくて嫌なんだけど、誰に迷惑かけるわけでもなし、余計な小言は喧嘩になるだけ、やめておけやめておけと洗い物をしながらギリギリする。

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