新生活へ
実にカラフルなお弁当箱が所狭しと並んでいる。
新生活応援特設コーナー
娘が高校に進学するので、来たるお弁当生活を前に、新しいお弁当箱を買いにきたのだ。今までのお弁当箱はもう小さい、と。入試当日は、お弁当箱に入りきらないおにぎり2個を別に持たせていた。背丈も私とあまり変わらなくなった娘と並んで、どのお弁当箱がいいか物色する。
ちゃんとフタがしまるのがいい。
キャラクターものは嫌。
たくさん入るけど、大食いだと思われたくないから、大きく見えないのがいい。
私がオススメした、最近はやりの曲げわっぱタイプは即却下された。
散々悩んで、控えめな花柄の、2段になったタッパータイプのお弁当箱に決定。お箸とフルーツ用小さめタッパーも選び、楽しい嬉しい買い物。
ようやく、高校生になるんだなあという実感が湧いてくる。
反抗ばかりで扱いに右往左往された、長い受験生生活も終わった。
これで受験生?
と、振り返れば目を疑うような生活であった。
下校後は眠くて寝てしまう。夕飯そっちのけ、起こしても起きない。9時ごろのそっと起きてきて、お腹空いたという。勉強しようと思ってたのに眠くて寝てしまったと、本人は超絶不機嫌で当たり散らされる。
眠かったんだもん仕方ないよ、さ、ご飯食べよう!
何かで読んだ「とにかく母は明るく!振舞って!」を実践しようと思うのだが、内心では「声かけたよ?7時半に起こしてって言ってたから、起こしたよ?でも起きなかったでしょ?」と思っているので、なかなか明るくは振る舞えない。演技失敗。女優失格。
受験間近で中学校の先生が1日のうち数時間は自習にしてくれたから、過去問はそこで進めたということだけど、彼女にとってはそれが1日の勉強時間のすべて。
土日はといえばなかなか起きない。幸い塾は好きだったので行き渋ったことはなかったが、いつも宿題が間に合わず、やりきれない自分に嫌気がさしてまた不機嫌。
ほっといてみても、「母親が不安のはけ口」である以上、わざわざ当たり屋よろしくいちゃもんをつけてきてイライラを発散する。
薄氷を踏むような日々であった。
思春期vs更年期。どうにもならない。こっちもしんどい。強いて言えば、こちらが大人である以上、そして向こうが受験生である以上、軍配は常に娘に上がる、ということだ。
娘さんが高校受験をした友人曰く:受験まではとにかくスルー!取り合っちゃダメ!そうだねそうだね、って、流すんだよ!→という、先輩母のアドバイス通りに、そうだねそうだね嫌だね大変だねと、まるで小さい子にするように接した日々。
娘さんが中学受験をした友人曰く:中学生になったら反抗期で勉強しないだろうから、ウチは中学で受験させておくわ。→そう言った友人の言葉が今になってボディーブローのように効いてくるとは。
だから、滑り止めの私立高校に受かった時は本当に嬉しかったし、第一志望の都立高校に受かった時はなかなか信じられず、肩の力も抜けなかった。合格発表のその日に娘と手続きに行った、その時に来ていた他の嬉しそうな子たちを見ても、なかなか娘が本当にこの輪の中に入っていくのか信じられなかった。制服採寸で試着した憧れのブレザー、チェックのスカート、チェックのリボン。帰り道のお昼ご飯のオムライス、ちょっと飲ませてねとグラスに注いだ冷たいラガービールの味。やれやれ。お疲れさま。
どれもこれもふわふわと実感がなく。
ひたすら、よかったね、よかったね、娘、娘。私だって。もう一杯。
力がぬけた。それだけか。
卒業式の練習、本当に嫌なの。何度も何度も同じこと。1回やればわかるのに。
夕飯の後、イチゴを頬張りながらむくれる。こんな風に中学にぶーたれるのももう最後、サヨナラ義務教育だと思うと、食器を洗いつつ私も余裕をもって言える。
そうだね、そんなにシャキッと軍隊みたいじゃなくてもいいのにね。
早く制服届かないかなあ、早く着たいなあと言いつつ、旅行会社の学生パンフレットをめくる。友達と遠出をする予定をたてているそうだ。
学生旅行、文化祭、恋愛。
この子は全部これからなんだと思うと、私自身は地面にべったり生きているこの現実を少し重く感じてしまう。
母親になって15年。私もちょっとスタンスを変えていこう。
洗い物の手を拭き、この前駅でもらってきたパンフレットを開く。
JR東日本 大人の休日クラブ ミドル 満50歳
気がつけば遠い未来じゃないことにびっくりする。
娘は学割、夫と私はさしずめシルバー割。
うん、悪くない。
何はともあれ受験の終わった春だから。
しばらくはうらうらしようっと。
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